インタビューinterview

ホーム ニュース インタビュー 日本全体がインバウンド市場であるという意識のもと、それぞれの地域の相互協力でAT推進の相乗効果を高めよう

日本全体がインバウンド市場であるという意識のもと、それぞれの地域の相互協力でAT推進の相乗効果を高めよう

佐藤啓介理事

一般社団法人長野県観光機構 専務理事

Q.長野県観光機構の事業概要について教えてください。

 主な事業は、観光振興と物産振興の2つになります。長野県の外郭団体として県の事業を担当しながら、自主事業もいくつか行っています。観光振興は2つの事業部が対応しています。パブリック事業部は県関係の事業を中心に行う部署で、長野県内のDMO・観光協会の支援や、サスティナブルツーリズムやサイクルツーリズム等の推進、国内外の観光客の誘客も行っています。AT関連はこの事業部で担当しています。もう1つのTX(T:トラベラー&ツーリスト/X:エクスペリエンス)デザイン部では、観光客・旅行者の体験価値向上を目的に、公式観光サイトの運営や、2022年12月にローンチした「Go NAGANOスマートパス」という長野県内の観光施設のオンラインチケット販売などを行っています。物産振興においてはCX(C:コンシューマー/X:エクスペリエンス)事業部が対応しています。この事業部では銀座にある長野県のアンテナショップの管理運営や通信販売事業などを行っています。

Q.長野県から予算執行されて行っている事業と自主事業との比率はどのくらいでしょうか。

 仕事に携わる職員の比率で言うと、現状は県事業が7割、自主事業が3割、といったところです。当機構では昨年度から自主事業に力を入れており、今後自主事業比率を高めていく計画です。自主事業に力を入れる理由は、DMOとしての組織力強化に必要な投資、例えば職員の教育や処遇改善、優秀な人材の新規採用を税金という公的資金で行うには限界があります。自分たちで稼いだお金でヒトに投資できるようにならなければ、私が目指している成長するDMOの実現は難しいと考えています。そのために、「Go NAGANO スマートパス」を始め、新規事業に積極的にチャレンジしていますが、簡単に収益化できるわけはなく、日々試行錯誤しながら少しずつ前進していくつもりです。

Q.パブリック事業部でATを担当されるようになった経緯をお聞かせ下さい。

 当機構として、ATに特化した事業を行っているという意識はないのですが、長野県におけるインバウンド観光客誘致の訴求力となり得るポテンシャルのある資源は何かということを考えたときに、「日本的な山岳の景観」「南北に長い県域と標高差がもたらした様々な気候・文化・歴史」ということに辿り着きました。この長野県特有の自然のフィールドや人々の営みをインバウンド誘致に生かそうと考えたとき、AT推進が1つの手段として有益であろうと考えました。

Q.ATに対する期待をお聞かせください。

 AT旅行者の特徴を考えると、彼らが長野県の多様な文化や歴史を高く評価してくれるのではないかと考えています。それは、既にインバウンド観光客が多く訪れている松本や白馬、軽井沢などのインバウンド先進地域だけでなく、長野県の特徴ある地域に価値を評価し訪れていただけることを期待しているということです。また、一般的にAT旅行者は、少人数スタイルで1人当たりの消費単価が高いため、オーバーツーリズム対策にも繋がるのではないかと期待しています。

Q.では、逆に、AT推進における現状認識・課題認識などをお聞かせください。

 AT推進にはガイドが重要な役割を果たすと言われていますが、日本では、ガイドがガイド業だけで生計を立てることはかなり難しいと聞いています。長野県でも、多くのガイドはボランティアであるか兼業ガイドです。ATを推進する地域が、より質の高いガイドサービスを提供することを目指すためには、ガイドがガイドとして食べていけるような仕組みを地域全体で考えていく必要があると思います。

 また、ガイドサービスを含めた地域全体をAT市場向けにコーディネートする機能が必要だと考えますが、長野県でそういった機能の実装が民間事業者で進んでいるかというと、なかなか中心的なプレイヤーが出てきていないというのが現状です。まだまだ新しい市場のため、思い切った投資に踏み切れないという背景があるのではと分析しています。

 であれば、そうした役割を地域の観光推進をミッションとするDMOや観光協会が担うという選択肢も考えられますが、その場合でもATに関する知識や経験を有する人材がDMOにいないまたは不足していることが問題になるでしょう。自前で人材の確保や育成を行うことも簡単ではないことから、アドベンチャーツーリズムアカデミー(ATA)で集約的に人材育成を行い、そこから排出される人材が各地でDMO等と連携しAT推進を行うという構想には期待をしています。

Q.JATOの理事として、JATO運営における課題認識や期待することがあればお聞かせください。

 これまではATTAの国内唯一の公認団体という立場での活動スタイルが主流だったと思いますが、ATTAの日本支部みたいな位置づけになってしまっては意味がないと考えます。あくまでAT市場に対し、日本が提供するサービス品質を向上し、日本国内の観光事業者のビジネスチャンスを増やすために活動すべきであり、ATTAは有力かもしれないがあくまで手段のひとつ。ATTAに依存しないAT推進の手段も持つべきです。

 また、ATの先進地域は欧米豪ですが、日本国内のAT市場の成長にもJATOが貢献できると良いですね。地域を深く楽しみたいというのは、何も外国人観光客に限ったニーズではなく、国内観光客においても既に増えてきているニーズだと感じています。ATを推進することで、地域と観光客がより良い関係性を構築できる未来に向けて、JATOが担うことができる役割があるはずです。

Q.JATOの会員やこれからATを推進しようと考えている方々に向けて何かメッセージはありますか。

 長野県のライバルになり得るので「あまり頑張りすぎないで欲しい」という本音は一旦横に置いておいて(笑)、日本のインバウンド市場における一つの武器に地域の多様性があると考えています。外国から訪れていただいたお客様が、いろいろな地域を訪れて、地域の特徴を楽しみながら、日本というデスティネーションを満喫してもらうことができるように、良きライバルとして切磋琢磨して行ければと思います。

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