世界の持続可能なツーリズムを牽引する力を有するATへの期待
阿部一晴理事
株式会社JTBグローバルマーケティング&トラベル取締役執行役員
Q.株式会社JTBグローバルマーケティング&トラベル(GMT)の事業概要についてお聞かせいただけますか。
JTBから分社独立をして、2005年から訪日インバウンドに特化した事業会社としてスタートしました。JTBの創業は1912年ですが、その設立の目的は『海外のお客様を日本に呼び込み、おもてなしをしてビジネスを行う』という所謂『訪日インバウンド事業』でしたので、GMTはJTBの創業精神を唯一継承している専門会社ということになります。社員は皆、JTBの創業事業に携わっているというプライドをもって取り組んでいますね。主な事業領域は、MICE事業とレジャー事業です。MICE事業は、グローバル企業のビジネスミーティングやインセンティブツアー、国際会議・展示会、スポーツをはじめとした国際イベント、などを取り扱う事業です。またレジャー事業は、欧米豪やイベロアメリカ諸国、アジアの旅行会社に向けて、団体向けにはシリーズやアドホック型のツアーの企画販売を、個人向けにはFIT型商品を、また富裕層向けには “BOUTIQUE JTB“ というブランドで高品質な商品を展開しています。さらには、JTBグループで最も古い1964年から販売している訪日外国人向け募集型企画旅行(着地型ツアー)である “SUNRISE TOURS” の企画販売をしています。こちらは現在、サスティナブルを意識した企画や地方への誘客を促すような企画に力を入れています。
Q.インバウンドの個人客や団体客の需要の戻り具合はどのように感じておられますか。
レジャー目的の個人客や団体客は急速に回復しています。また、企業のインセンティブツアーも日本国内で開催したいというニーズが高まってきたために増加傾向で、昨年はこうした需要を多く取り扱いました。特に、昨年5月にG7広島サミット2023が開催されたこと、10月には米国の有名な大手旅行雑誌『コンデナスト・トラベラー』が発表した「世界で最も魅力的な国ランキング」で日本が1位に選ばれたこと、などを受けて、現在も引き続き多くのお客様を取り扱っています。
Q.インバウンド需要の回復と共にオーバーツーリズムが課題となっています。GMTが取り組んでいるオーバーツーリズム対策についてお聞かせください。
“SUNRISE TOURS”において、全国各地にインバウンド向けの基幹となるマザーコースを作った後に、それをベースにJTB各支店や各地域の自治体などと連携して、より外国人のニーズを組み込んだ“チャイルドコース”や地域の魅力が盛り込んだコンテンツを提案して、送客の分散化を図るというものです。
例えば、東京から関西に向かうのは箱根を経由するのが定番でしたが、延伸した北陸新幹線を利用して金沢を経由するマザーコースを新たに提案して、更に金沢近郊を訪れるチャイルドコースを造成する、更に大阪から広島など瀬戸内周辺地域に足をのばすコースをいくつか提案する、というようなことです。こうした取り組みを全国各地に展開して行きたいと思っています。
Q.GMTとしてAT推進に期待することや課題と考えることはどのようなことでしょうか。
日本各地には、多様な歴史・自然・文化・食生活・アクティビティコンテンツ等が充実しています。また、四季があるため、同じ場所でも異なる時期に訪れることで新たな感動や発見があり、ATを推進するためのポテンシャルが充分備わっていると思っています。
ここ数年の間に様々な地域が積極的にAT推進に取り組んでいて、多くのAT商品を生み出そうと努力されています。ところが、先進地域と後発地域では取組み状況に格差が生じているようですし、またATガイドの品質であるとか、そもそも人材不足といった課題が顕在化しています。AT推進においては、ガイドの質の向上や地域全体をコーディネートするリーダー人材が欠かせないポイントとなりますので、アドベンチャーツーリズムアカデミー(ATA)の取り組みにも期待しています。こうした課題解決は、事業者が単独でできるものではないので、JATOとして地域の関係者の方々と連携しながら解決の方向に進めて行きたいと思っています。ATWS2023を機会に高まったAT推進の気運を、ぜひ皆で連携して継続させていきましょう。
Q.GMTのATへの取り組み状況をお聞かせください。
47都道府県にあるJTB支店や地域DMO・DMC等と連携をして、全世界の旅行会社に向けたAT商品開発・販売を行っています。
具体的には、JTBグループが昨年10月から国内マーケットで開始した「日本の旬AT」について、GMT社員全員で理解を深めるとともに、インバウンド向けの商品としてリアレンジをしました。先ほど触れた “SUNRISE TOURS” では、「本物の京都」と題して最大6名で京都の路地裏を巡るサイクリングツアーや、日光の世界遺産の輪王寺での護摩行体験と精進料理ランチを組み合わせた体験ツアーなどを企画販売しています。また、スポーツと体験・学びをキーワードに商品展開しているJTBグループのJTBガイアレックのツアーの中からも、札幌市内のモエレ沼公園でスノーシュー体験をするツアーや、大雪山旭岳でスノーパウダーをスノーシューで堪能できるツアー等を訪日客向けにリアレンジしています。北海道では、独自のATガイド認定制度の構築やガイド育成事業にも携わっています。こうした商品の企画販売を担うことで、国内でのAT市場の拡大に寄与したいと考えています。
Q.国内向けのATツアーをインバウンド向けにアレンジするときには、どのようなことを意識していますか。
外国人旅行者が興味を持つポイントを理解して案内ができるガイドを手配することを心掛けています。例えば、金沢の兼六園を訪れた際、日本の人たちは徽軫灯籠や雪吊りの準備作業に興味を持つことが多いです。外国人ももちろんそれらにも興味を持ちますが、それ以上に園内の苔の美しさに興味を持ちます。職人さんたちが手作業で苔の手入れをしている姿に感動してその後姿を写真に納めています。このように、外国人の視点に立ち外国人が興味を持つことを察して一歩踏み込んだ説明が出来ることが、インバウンドの、特にAT商品では重要なポイントになります。
Q.最後にひとことお願いします。
昨年、北海道で開催されたATWS2023に参加しましたが、ATTA CEOでJATOのアドバイザーでもあるShannon Stowell氏が発言された「ATTA会員が先頭に立って、世界のサスティナブルツーリズムやレスポンシブルトラベルを推進させましょう」というメッセージに感銘を受けました。ATには世界のサスティナブルなツーリズムを牽引する力がある、ということ共通認識において、皆さんと「共に何をすべきか」ということを考えていけたらと思います。