「アドベンチャーツーリズムで地域に新しい価値創造を」

風間　欣人 理事

株式会社JTB総合研究所　代表取締役社長執行役員

Ｑ：改めてJTB総合研究所の事業内容をお知らせください。

　３つの事業を行っています。１つめは、観光・旅行分野のシンクタンクとして、業界動向や旅行者意識、消費行動などの調査・研究を行う事業。２つめは、JTBグループや自治体・民間企業などに対する事業支援やアドバイスなどを行うコンサルティング事業。３つめは、旅行業務取扱管理者を始めとする資格取得支援や観光人材育成などを行う観光教育事業です。特にコンサルティング事業では、持続可能な観光地域づくりに向けて、地域の観光推進プランの策定から地域の活性化実現に至るまで、トータルで伴走支援を行っており、これまで数多くの実績を上げています。

Ｑ：JTB総合研究所としてアドベンチャーツーリズム（AT）にどのようにかかわっておられますか？

　昨今では旺盛な訪日需要の影響により、メジャーな観光地域ではオーバーツーリズムが深刻な問題となっていることは周知の事実です。オーバーツーリズムを緩和させる具体的な対策のひとつとしては、旅行客を地方に分散させることがあげられますが、地域の事業を伴走・支援していく中で、ATが地域の活性化に寄与すると判断できる場合には、地域の本質に触れるツーリズムであるATをフックとして、いろいろな提案を心掛けるようにしています。「AT推進を強化する」ということではなく、「地域課題の解決手段や活性化の手段としてATがある」というスタンスでかかわっています。
　

Ｑ：ATを推進する際に、課題として感じていることをお聞かせください。

　ポイントが３つあると思っています。１つめは、日本におけるアドベンチャーツーリズムの認知度の低さ、言葉から連想するイメージのギャップによりきちんと定義を理解している方が少ないということです。観光事業者でさえも誤解をしている方が多いため、AT啓発のための発信力を強化することが重要と思っています。２つめは、ATに取り組む地域の受け入れ体制の整備です。１事業者だけで完結出来るものではなく、行政から住民に至るまで、地域全体が関わることが肝要です。特に、自然と触れ合うからには安全管理は最優先事項ですし、文化財の保護と活用のためにも、インフラ整備は非常に重要です。３つめは、地域における人材確保です。持続可能な観光地域づくりのためには、地域に根差した推進リーダーや、専門人材、ガイドが欠かせません。
こうした課題の解決に向けて、認知度向上についてはメディアや関係団体との連携やJATO会員拡大の取り組みを通じて啓発活動を行っていきたいと思います。受け入れ体制の整備については地域での人材確保とセットで考えるべきで、地道な人材育成とともに人材発掘をするということも肝要でしょう。育成には時間もかかりますし簡単なことではないですが、発掘できれば即戦力になることも考えられます。

Ｑ：JATO理事としての抱負をお聞かせください。

　まず、法人として自立した経営をするための収益基盤を整えていきたいと思います。そのためには、会員拡大と会員との信頼関係の構築が必要不可欠ですし、質の高い会員サービスを提供することも肝要です。次に、会員や観光関連団体との連携を通じて、ATの質を高めていきたいとも思っています。世界水準のATを実現して、持続可能な観光地域づくりに生かすことができれば、観光立国の推進にも寄与するものと考えます。
最後に、会員やATを推進する地域の方々と密接に連携して共創をすることです。ATを介して地域に新しい価値創造をしていきたいと思っています。

Ｑ：JATO理事として、会員やAT推進に取り組む地域の皆さまにメッセージがあればお聞かせください。

　旺盛な訪日需要ですが、訪日客の多くに意識の変化が見られています。かつての富裕層は、物質的に豪華一辺倒な旅行を志向していましたが、近年では、日本ならではの体験や地域住民とのつながりを求める人が多く見られるようになりました。このような価値観の変化を敏感にとらえ、これまでの観光の在り方を見直して、地域の本質的な価値を再発見して提供することができれば、日本全国すべての地域にビジネスチャンスがあるはずです。これまで注目度が低かった地域の観光関係者の皆さまは、自分たちの世代で観光産業を衰退させてしまうのではなく、次世代に引き継いでいくために、ぜひ埋もれている地域の価値を見出し、磨き上げて、世に送り出していって欲しいと思います。

Ｑ：現在、立教大学で特任教授をしておられますが、次世代のツーリズム産業を担う若者にもメッセージをお願いいたします。

　私の周りを見渡すと、いわゆる大手企業だけでなく、ベンチャー企業への就職に関心を持つ学生も数多くいます。そうした学生の多くは、高収入や安定志向というよりも、「自分の価値観に合った仕事がしたい」「地域や社会に貢献したい」といった強い想いを抱いています。そのような若い世代の熱意や志を、ぜひ地域の活性化に活かしていっていただきたいと心から願っています。ツーリズム産業は、非常に奥が深く、また幅広い可能性を持つ産業です。ぜひ皆さんとともに、地域を元気にしていきましょう！