「移動に新たな価値を創造して地域との関係つながりを」
森 豊人 理事

日本航空株式会社 関係つながり創造部 担当部長
Q.現在所属されている部門の業務内容をお聞かせください。
人口減少や少子高齢化にともない国内の航空事業環境が縮小していくなか、航空事業を持続可能な産業としていくためには、搭乗人数ではなく搭乗回数を増やすことが必須となります。そのためには、航空機を「単なる移動手段」として提供するのではなく、「移動を通じた地域との関係つながり」を創造することが肝要です。関係つながり創造部は、移動先となる地域に新たな価値を創造することで、お客様に地域の魅力を実感いただき地域との関係人口化を進め、将来的には移住にまで繋げていくことを戦略として企画立案し各施策を推進していく部門として、昨年 7 月に発足しました。こうした取り組みを通じて、持続的に社会的価値と経済的価値を高めて、地域や社会のお役に立てるよう企業価値の向上を図ってまいります。
Q.具体的には、どのような施策を行っているのでしょうか。
航空機の利用経験が浅い方々(ライト層)と、逆に利用頻度が高い方々(コア層)という2つのセグメントに対する取組みをしています。まず、ライト層に向けた取り組みですが、近年力を入れているのが、「若年層の方々の移動機会を創出しよう」ということです。多くの若い方々が、「旅行にお金をかけづらい」と感じている、また一部では「旅行以外の選択肢に関心が移っている」という背景も見られる状況を鑑み、ぜひ若いうちから旅行を楽しんでもらいたいとの思いから、地方の自治体様に対して「スカイメイト運賃(*1)」のご紹介とプロモーション展開し、若者と地域の関係つながりの創出に努めています。
(*1)12 歳から25 歳までの「JAL マイレージバンク(JMB)会員」を対象とした当日予約運賃。通常運賃比較で35%~77%程度割安に設定。一部路線では自治体と協業プロモーションのうえ運賃設定をしている。https://www.jal.co.jp/jp/ja/dom/fare/skymate-fare/?msockid=224bcabd51e269d03372de4350ed681d
また、国際姉妹都市の交流事業のお手伝いも重要です。地方行政単位の交流ですので、留学や研修、海外視察など様々な領域で国際間の双方向交流が進むことが期待できます。このため、国内外にあるJAL グループのネットワークを生かし、自治体レベルでの文化交流や親善を目的とした交流について、移動や企画面の支援を行っています。こうした取り組みにより、国際間の交流人口、関係人口の裾野が広がっていくものと思っています。つぎに、コア層に向けた取り組みですが、ひとつは二地域居住の促進です。二地域居住とは、都市と地方の2つの拠点に住居を構える生活パターンのことを指しますが、週末や1年のうちの一定期間を、地方にあるもう一つの家で生活するスタイルが浸透していけば、関係人口の増加に繋がります。さらには、ワーケーションやニューツーリズム(*2)商品の提案です。サ旅(サウナ体験旅)のようなニッチな層に向けたツアーやアドベンチャーツーリズム(AT)に代表されるような高付加価値な体験型ツアーなどを企画提案することで、新たな移動需要を掘り起こすことができると思っています。
(*2)エコ、グリーン、ヘルス、ロングステイ、サスティナブル、アドベンチャーなどにカテゴリー分けされている 新しいツーリズムのこと。
ニューツーリズムは決してマスマーケットではないのですが、「旅の本質に触れる、心を動 かす旅」であることから地域の魅力的な観光資源、観光地そのものへの関心や興味を高める きっかけになります。こうしたニューツーリズムへの認知度を高めることや、特定のニーズ を持つコア層を対象に地域との関係性をより強めていただくために、今年3 月から 「DEEEEP JAPAN(3)」という特設サイトを開設しました。
(*3) https://www.jal.co.jp/campaign/dom/deep-japan/?msockid=224bcabd51e269d03372de4350ed681d
Q.JATO 理事としてJATO に期待することは何でしょうか。
2030 年に訪日外国人旅行者6,000 万人を目指している我が国にとって、AT は外客の地方・地域誘客の手段のひとつであり、地域経済の好循環にも寄与する重要なツーリズムであると認識しています。世界水準のAT を日本に普及させるにあたって、JATO の役割は大きなものがあると感じていますので、ぜひその一翼を担わせていただきたいと思います。

Q.ATを推進するにあたって課題と感じていること、目指したい方向などお聞かせください。
課題としては地域間の格差の解消でしょうか。インバウンド誘客やAT 推進について、地域ごとに温度差が感じられるようです。それぞれの地域が抱える体制整備や人材確保といった課題に起因するものと推察しておりますが、この温度差を解消し、取り組みを平準化させていきたいと思います。そのための第一歩として、国内約30 の拠点を有するJAL グループの支社・支店の間で、各地で取り組んでいるAT 推進の成功事例を共有しノウハウを横展開することで、JAL グループ内のAT 推進に関する熱量を引き上げていく。その結果として、支社・支店がかかわる地域の皆さまの取り組みに貢献していきたいと思います。さらに、同じJATO の理事企業として、JAL グループとJTB グループが各地域での事業連携や協業を進めることでAT の国内展開を着実に推進し、地域の活性化に貢献していくことが理想です。
Q.JATO理事として、会員やAT推進を目指している地域に皆さまにメッセージがあればお聞かせ下さい。
AT は、自然・歴史・文化といった地域固有の魅力を磨き上げて、高付加価値な自然文化体験型観光として提供するものです。埋もれていた地域の資源を表舞台に引き出すことのできるツーリズムです。地域の皆さまにとって気にもとめなかったコトやモノが、地域の宝として輝きを増し、新たな人流を生み出し、さらには経済効果となって地域に還元されるきっかけとなるツーリズムです。ぜひ皆さまと力を合わせ、AT を一つの手段として地域の価値を創造し、地域の明るい未来のために取り組んでいけることを心より願っています。