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旅のスタイルとして主流になる可能性も

JTB総合研究所
交流戦略部長 主席研究員
山下真輝氏

求められる広域受入体制の整備

Q.観光による地域振興という視点から、アドベンチャーツーリズム(AT)の可能性をどのように考えていらっしゃいますか。

A.例えば、訪日インバウンド市場における欧米豪からの旅行者誘致の手法というようなことでは、ATの取り組みを通じて、少しずつ固まってきているという実感はあります。旅行消費という観点からは、観光地は日本人旅行者による22兆円をベースにしてきたわけですが、インバウンド旅行者が来ることによって、宿泊施設の平日稼働率が上昇したり客室単価が高くなったりという形で観光の生産性も上がってきたわけです。ただ、近年のインバウンド市場の拡大は東アジアが中心で、昨年のラグビーワールドカップの時に、観戦で日本を訪れた欧米豪などからの旅行者の平均支出額が約39万円だったという現実は、非常にインパクトが大きかったと思います。特に、開催された試合の数が多かった九州では、街中に欧米人が溢れかえりましたけれども、今はもう欧米人の旅行者の姿は以前と同じように少なくなりました。東アジア一辺倒から滞在日数が多く、かつ宿泊、飲食、娯楽・アクティビティといった地域への経済効果の高い部分の旅行消費額が高い欧米豪へのシフトも図りたいという動きもあり、そういう次のステップへの打ち手として、ATというテーマは説得力もあるし、可能性も感じさせるものになってきていると考えています。

Q.AT市場への期待やAT旅行者を誘致するために解決すべき課題などをお聞かせください。

A.これまで体験型ツーリズムとか自然を活用したアクティビティによる体験型観光を推進しようとか、漠然としたイメージの中で語られることが多かったわけですが、実は、世界的にはATの巨大なマーケットが存在しており、日本がATデスティネーションとしてまだ認知されていなかっただけで、欧米などでは実際に多くの旅行者が動いているという非常にリアリティのあるマーケットなんです。したがって、自治体の皆さんなどと話をすると、「ぜひ、我々もそこに向かって進んでいきたい」ということをおっしゃいます。ただ、日本には広域連携DMOは存在しているものの、広域連携を構成する自治体の圏域を超えて受け入れ体制が整備されているかというと、必ずしもそうではない現実もあります。ATの旅行者は1週間あるいは2週間をかけて、非常に広範囲に動きますから、広域連携が本来的な意味合いで機能していなければなりません。そのほかにも、行政における政策立案者の育成、民間におけるガイドやコーディネーターなど必要な人材の養成など、クリアしなければならない課題は少なくないと思います。

旅行業の在り方を自ら問い直す

Q.旅行会社や地域がATに取り組むことには、どのような意義を見出せるでしょうか。

A.日本では従来、ATはSIT(Special Interest Tourの頭文字の略。特別な目的に絞った旅行のこと。)として見られたり、実際にSIT的な取り扱いをしてきた経緯もありますが、現在のATはニッチな話ではなく、これからの若い人たちの旅のスタイルとして主流になる可能性もあると考えています。非常にアクティブであると同時に、地球環境や気候変動に関心を持ち、地域文化にも興味があるという人たちは、OTAで航空座席やホテルを予約して、ガイドブックを見ながら旅をするだけでは満足できないと感じるようになるはずです。ATTAに加盟している旅行会社は専門性も極めて高く、高付加価値な旅行をプランニングしている人たちの知識も豊富で、非常に深堀りしたツアーを企画しています。顧客の求めていることをきちんと理解して、場合によっては、その心理まで分析したうえで、いかに旅の経験価値を高めるか、その地域の持つ固有性をどのようなストーリーで伝えていくか、トータルにツアーを組み立てて、付加価値の高い内容を実現しています。OTAが市場を席捲している欧米各国で、ATTA加盟の旅行会社がただ生き残るだけでなく、一定以上の存在感を示しているのには、それなりの理由があるのです。日本の旅行会社も本格的にATの取り組みを進めれば、旅行業の在り方を自ら問い直すことになるだろうと思います。また、ATの旅行者を受け入れる地域側も、本気で自然保護や地域文化の保全に取り組み、観光産業だけの発展ではなく、地域住民と一体となった地域づくりを行っているのかが問われることになります。表面的にしかやっていない地域は、本物の観光地として見てもらえませんし、本当の意味で旅行者に感動させる体験は提供できないと思います。ATのデスティネーションを目指そうという地域は、最終的にサスティナブルな観光地かどうかを試されますから、地域の観光振興計画そのものを見直す必要も出てくるかもしれません。

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